Q&A:水に浸かった日本刀の応急処置

このたび西日本で発生しました豪雨により、犠牲になられた方には衷心よりお悔やみ申し上げますとともに、被災された皆様方にお見舞い申し上げます。

水害にあった刀についての対応につきまして種々のご意見がありましたので、当財団としても応急処置方法について下記に述べます。


【2018/7/13更新】

前提として

給水支援などで水の確保をされている地域も多くあり、十分な量の水が確保できない現状にあわせ、水を使用しない場合の応急処置です。(きれいな水を十分量確保できる場合には、それぞれの手順①の前処理として水を刀身にかけて砂利などを取り除いた後に速やかに(1~2分以内に)処置を行ってください。)

原則として応急処置としての対応であり、長期保存に向いた対応ではありませんのでご了承ください。

 
【水に浸かった日本刀の応急処置について】
(Twitterで紹介されているものについて)

一、

概ね、Twitter上に記述の方法でも1~2ヶ月以内に研ぎを含めた本処理をするという条件のもとでなら可です。

一、

熱湯をかけることは、当財団ではおすすめしません。家宝の大事な刀や、いわゆる名刀の場合には避けた方がよいでしょう。なお、60℃くらいの温湯は許容範囲とします。

一、

刀身へのサランラップ、クレラップ、塩化ビニルラップの直接使用は長期保存にはむきませんが、短期間の使用(1~2ヶ月以内)なら可です。

【水に浸かった日本刀の応急処置方法】
<河川の水の氾濫による場合>(海水等は条件から外します)

手順

まず刀を鞘から抜き、目釘も外し、柄からも抜き、刀身のみにします。

ティッシュ等で刀身に付着した水分を除去します。

30分~1時間程待ち、少し乾燥させます(この時点で薄い赤錆等はあってよい)

固形の石鹸(※1)に少し水をつけ、スキー板にワックスを塗る要領で(石鹸を刀身に軽く押し当てて塗る、時々水をつけたし濃く厚く塗る)刀身全体に塗ってください。茎には塗らないでください。このとき手を切らないように注意してください。

つるぎの屋さんが提案している紙鞘(新聞紙や広告の紙(※2))を刀に巻くのは良い方法です。新聞紙3~4枚を重ねて刀身全体を包み、紙を鞘状に成形してください。(ラップ等は使用しない)

この状態で子供らが手を触れない場所に保管してください。2~3ヶ月程度保持できます。

すみやかに専門家にご相談下さい。

(※1)

固形石鹸は[洗濯用石鹸]や[手洗い用石鹸(保湿剤を含まない)]を使用し、薬用石鹸や保湿剤の入った洗顔用石鹸は使用しないでください。

(※2)

濡れた靴に新聞紙を丸めて入れるように、新聞紙は水を吸う性質があります。
印刷インク自体に含まれる油はわずかであり、それより水を吸う力の方がはるかに強いのです。
また、印刷インクの種類によっては錆が発生する原因となる場合もありますので長期保存には向きません。
ただし、今回は短期間の応急処置としての対応ですので、比較的手に入りやすい新聞紙は可とします。

【水に浸かった日本刀の応急処置方法】
<水に浸かった刀を確認したところ、すでに赤茶色の錆が発生したものが数振りありました。下記は錆が発生していた場合の対応です>

手順

まず刀を鞘から抜き、目釘も外し、柄からも抜き、刀身のみにします。

ティッシュで水滴や汚れを取ります。
刀袋に入っているものは泥水でも布によって幾分かろ過されているので、強くこすらなければ何とかヒケをつけずにすみます。
優しく、丁寧に水分を取り除いてください。
すでに錆が始まっている場合は、この位は気にせず、まず水分の除去を優先します。

水分をふき取りほぼ乾いたら、刀剣油を塗ってください。
刀剣油などもどこにあるか判らない状態でしたら、サラダ油、天ぷら油でもよいのでとりあえず塗布して下さい。
期保存においては種々の問題が発生しますが、3か月以内であれば可です。

元の鞘に戻さないでください。水分が多量に含まれており、錆の原因となります。

新聞紙3~4枚を重ねて刀身全体を包み、紙を鞘状に成形してください。
ラップを巻いても巻かなくても有効です。

すみやかに専門家にご相談下さい。

災害時ですので、
◎ 人命
◎ 水・食料・衣料品・住居
◎ 健康(伝染病の防止を含む)
  が優先であり、刀なんかの心配をしている場合ではないとのお声があることも承知しております。

  まずは「人命」「水・食・衣・住」「健康」を最優先に、気持ちに余裕ができましたら刀に対して上記の対応をお願い致します。

当財団関係者においても先日の地震と豪雨災害で多くの被害が出ており、現在復旧や生活の援助に時間をとられております。
水に浸かってしまった日本刀への対処方法についての更新が遅くなりましたことをお詫び申し上げますと共に、刀を助けようとする皆様の心に感謝申し上げます。